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海のこと

豊穣の海 第一巻 「春の雪」  著/三島由紀夫 より

退いてゆく波の彼方に、幾重にもこちらへこちらへと折り重なってくる波の一つとして白いなめらかな背を向けているものはない。みんなが一せいにこちらを目ざし、一せいに歯噛みをしている。しかし沖へ沖へと目を馳せると、今まで力づよく見えていた渚の波も、実は希薄な衰えた拡がりの末としか思われなくなる。次第次第に、沖へ向かって、海は濃厚になり波打ち際の海の希薄な成分は濃縮され、だんんだん圧搾され、濃緑色の水平線にいたって、無限にに詰められた青が、ひとつの硬い結晶に達している。距離とひろがりを装いながらその結晶こそは海の本質なのだ。この稀いあわただだしい波の重複のはてに、かの青く凍結したもの、それこそが海なのだ。......

(新潮文庫 P.273)
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by oyukibo | 2010-08-02 22:16 |

春の雪

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三島由紀夫『豊饒の海1−春の雪−』より
「貴様は、きっとひどく欲張りなんた。欲張りは、往々悲しげな様子をしているよ。貴様は、これ以上何が欲しいんだい」
「なにか決定的なもの、それがなにかわからない」P,25

「…すべて神聖なものは夢や思い出と同じ要素から成立ち、時間や空間によってわれわれと隔てられているものが、現前していることの奇跡だからです。しかもそれら三ついずれも手で触れることのできない点で共通しています。手で触れることのできたものから、一歩遠ざかると、もうそれは神聖なものになり、奇跡になり、ありえないような美しいものになる。事物にはすべて神聖さが具わっているのにわれわれの指が触れるから、それは、汚濁になってしまう。われわれ人間は、不思議な存在ですね。指で触れる限りのものを汚し、しかも自分のなかには、神聖なものになりうる要素を持っているんですから。」P,61

-YUKI NINAGAWA-
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by oyukibo | 2010-02-16 21:36 |

三島由紀夫あるいは空虚のビジョン

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三島由紀夫あるいは空虚のビジョン
MISHIMA OU LA VISION DU VIDE
マルグリット・ユルスナール著 渋沢龍彦訳   河出文庫
Margurite Yourcenar

はじめてマルグリット・ユルスナールの本を読んだ。三島由紀夫が自決して介錯された頭が最後に転がっている。ユルスナールはこう語る。「空虚など、急にたんなるひとつの概念、結局あまりに人間的でしかない一つのシンボルのように見えてくるほどだ。二つの物体は、破壊された組織のすでにほとんど無機的な残骸であり、ひとたび火に焼かれれば、これもまた鉱物の残滓と灰でしかなくなるのである。それは、瞑想の主題ですらなくなるだろう。」この本の最後のこの文章を読んで「空虚」という概念にしばし思いを馳せた。
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by oyukibo | 2007-04-24 16:42 |